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1「脱税と節税は紙一重?」 よく「脱税と節税は紙一重」などと言われることがあります。 でも元国税職員の立場から言うならば、脱税と節税というのは明らかに一線を画すものです。 そもそも脱税とはなんなのでしょうか? 本来、犯罪用語としての脱税というのは、裁判で税法違反の判決が下ったものだけのことを指します。 新聞などで「脱税」という見出しがあるものは、起訴されたものだけなのです。 では税法違反の判決はどういうときに下るかというと、「悪質な課税逃れがあり、高額(1億円以上が目安)なもの」に対してだけです。 では「悪質」とはどういうことを差すのでしょうか? これも税法には、具体的な定義があります。 悪質な課税逃れというのは、「仮装隠蔽がなされたもの」とされています。 つまり、税金を逃れるために、ありもしないことをでっちあげたり、あるものを隠したりした場合のことなのです。 だから、どんなに無理な税法の解釈をして、課税を逃れていても、「隠したり」「でっちあげたり」していなければ、脱税とはならずに単なる「課税漏れ」なのです。 たとえば会社の代表者が豪遊し、それを研修費などとして会社の経費で処理したとします。これは税法の解釈誤りではありますが、脱税にはならないのです。 逆に、一般的に見てそれほど悪質とは思えなくても、脱税とされるケースもあります。 たとえば今期の利益が思った以上に出てしまい、期末の売上を数日間だけずらして来期の売上であったことにしようと請求書や納品書などの日付を書き換えたとします。 これは売上自体を隠したわけではなく、単に売上の期日を先送りにしただけなのですが、「書き換えた」という時点で、「仮装隠蔽」とされ、「悪質な課税逃れ」の対象となるのです。もし、この額が高額であれば、脱税容疑で起訴ということにもなるのです。 2「脱税の3形態」 脱税というのは、次の3つの形態があります。 @収入を抜く A経費を水増しする B在庫を少なく見せかける どんな複雑な手法を用いた脱税であっても、最終的にはこの3つに集約されます。 収入を抜くというのは、その名の通りです。経費を水増しするというのも、わかりますね。最後のB在庫を少なく見せかけるということは、少しわかりにくいので説明をしましょう。 事業者の税金(所得税、法人税など)は、事業の利益に税金がかかってくるものです。この利益というのは、次の式で求められます。 収入−(経費−在庫)=利益 この式を見ればおわかりの通り、在庫を実際よりも少なくすれば利益が少なくなります。これが、在庫を少なく見せかける脱税の仕組みなのです。 「収入を抜く」ことも、「経費を水増しする」ことも、取引が介在します。つまり@Aの二つの脱税は必ず相手があることなのです。@Aの脱税は「だれかに売ったものを隠す」「だれかからなにかを買ったことにする」ことなので、そのだれかを調べられれば、発覚してしまいます。また@Aの脱税は、だれかに迷惑がかかることでもあります。 しかしBの在庫を少なく見せかける脱税は、自社の中だけで完結します。だから、脱税者にとっては、非常にやりやすい脱税だといえます。 ただし、この脱税方法は、その期の税金は安くなりますが、翌期の税金は高くなってしまいます。 在庫を翌期に繰り越しただけなので、本当は存在しない在庫が帳簿上には残っています。だから翌期は、帳簿上の在庫をさばかなければならないので、仕入をせずに売上だけがある状態になってしまうのです。 在庫を少なく見せかける脱税を何年も続けていれば、限りなく、正当な納税額に近づいていくのです。 つまり、在庫を少なく見せかける脱税は、当座の税金を少なくしたいがための、その場しのぎの脱税だといえます。 また、その場しのぎの脱税だとしても、税務署に見つかれば、当然、厳しいペナルティーが課せられます。 3「現金商売の脱税」 「現金商売」というのは、非常に脱税しやすいと、よくいわれます。 現金商売というのは、モノを売ったり、サービスを提供した場合、その支払いが現金で行われる商売のことです。 一般の人が利用する店は、ほとんどがこの「現金商売」にあたります。 みなさんだいたい推測がつくとは思いますが、現金商売がなぜ脱税しやすいか、というと @お客が不特定多数であること A支払いが現金なので隠しやすい の二つの大きな理由があります。 お客さんが、特定の人であれば、税務署はその店のお客さんを調べれば、だいたいの売上がわかるわけです。また、支払いが現金でなく、銀行振込や手形であれば、税務署は入金状況を簡単に把握できます。 つまり、現金商売の特徴「お客が不特定多数であること」「現金払いであること」は、脱税をしやすい要件を満たしているのです。 でも、現金商売であれば、どんな業種でも脱税がしやすいかといえば必ずしもそうではありません。 「大きくて価格も高い物」を売る商売は、比較的、脱税がしにくいといわれています。 たとえば、電化製品を売る場合。 電化製品は、仕入れ先が限られています。税務署が、仕入れの個数を調べれば、売上は、ほぼわかってしまいます。だから、現金で不特定の客に売って、売上げを隠したとしても、仕入れの面から、脱税がわかってしまうのです。 現金商売で、もっとも脱税がしやすい業種というのは、なんといっても飲食業です。 飲食業は、仕入れたものを変形して販売する業種です。「仕入の数量」と「売上の数量」は、一致しないのです。 だから税務署が仕入を調べても、それだけで売上を把握することはできません(ある程度推測はできますが)。 それが、「飲食業は脱税の常習業種」の理由なのです。 4脱税常習犯パチンコ業界 パチンコというのは、常に脱税業種ランキングの上位に位置しています。パチンコは不況にも強い業種であるとともに、非常に脱税しやすい業種なのです。 なぜパチンコが脱税しやすいかというと、まず「客が不特定多数であり、領収書を発行することもほとんどない」ということがあります。脱税の方法というのは、大きく二つに分けられます。「売上を抜く」か「仕入を過大に計上する」ということです。脱税事件のほとんどは、この二つに集約されます。 パチンコの脱税方法はこの二つのうち「売上を抜く」方法がメインです。税務署が「売上を抜いていないかどうか」を確かめる場合、もっとも確実な方法は、「だれにどれだけ売ったか」ということを、客の側から確認することです。でも客が不特定多数であれば、「だれにどれだけ売ったか」ということが、わかりません。 また、パチンコ屋には、「仕入がない」ということも、脱税をしやすい要因になっています。普通の商売と言うのは、売上には仕入があります。だから、税務署が事業者の仕入を調べれば、その商売のだいたいの売上がわかります。 しかし、パチンコの場合、玉を売る商売です。その玉は、店の中で循環するものなので、玉の数を数えたところで、売上がどのくらいあるかは、わからないのです。 またパチンコ業界というのは、脱税に関して、まったく罪の意識がない業界ともいえます。 10年ほど前、当局はパチンコ業界にプリペイドカードの導入をさせようとしました。プリペイドカードを導入すれば、プリペイドカードの売上を調べれば、だいたいの収入がわかります。パチンコ収入をガラス張りにしようと試みたのです。しかし、このときパチンコ業界は、あらゆる方法を駆使して、プリペイドカード導入に、激しく抵抗しました。 普通、プリペイドカードにすれば、客の利便性も上がり、あらたな需要拡大にも結びつくので、業界が反対するなんてありません。なのに、導入に反対するということは、まさに、自分たちは脱税をしています、と言っているようなものだったのです。 結局、プリペイドカードは導入されましたが、パチンコ業界は、めげませんでした。 パチンコの機械の中に脱税するための操作が組み込むなど、ハイテク化した脱税方法を考え出したのです。これはどういうことかというと、パチンコの売上を記録する装置が、本当の売上金額と、税務署に申告するための売上金額(実際よりかなり低い額)の両方を記録出来るようになっていたのです。つまり、パチンコ台そのものが、売上を誤魔化す機械となっていたのです。 もちろん、これはパチンコ店一店で、出来る脱税ではありません。業界を挙げて協力してこそ、出来る脱税方法なのです。 税務署は、この脱税方法はすでに把握していますが、パチンコ業界も、また新たなハイテク脱税を考え出していると見られています。税務署とパチンコ業界のいたちごっこは続いているのです。 |
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